まだ相手が学生であるとの理由から、最初のほどは反対したけれど、愛《いと》しい娘が病の床へついたまま起きあがらないのを見て、ついに同意した。しかし条件があった。それは、家の事情でなお一両年稼業を続けさせて貰いたい。くらし向きに余裕ができしだい、婿さんに引き取って頂くことにするからというのである。
さて、瀧川一益の家臣に、吉野雀右衛門と呼ぶ分別盛りの武士があった。厩橋市中取締を役目としているのであるけれど、雀右衛門という男は、この頃の政府の役人のように権柄《けんぺい》づくで賄賂を人民から捲き上げるのを常習としていた。そして酒の上が甚だよくない。宴席の口論から、同僚を傷つけた。
当時、戦国で世は乱れていたから、権柄づくや、少し位の収賄は藩主もこれを論ずる遑《いとま》がない。殊に一益は女も好き酒も好きであったから人の酔心については、深い理解を持っていた。酒の上の過ちなど聞かぬ振りをしていたのだ。
だが、いかに乱世とはいえ同僚を傷つけたのは、ただごとならん。これを黙って見ていたのでは家中のしめしがつかぬという段となり、雀右衛門は厩橋城から追い払われそうになったのである。
どうしたものだろ
前へ
次へ
全22ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング