純情狸
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)名偈《めいけつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)浅間|颪《おろし》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「豸+權のつくり」、第4水準2−89−10]
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 私に董仲舒ほどの学があれば、名偈《めいけつ》の一句でも吐いて、しゃもじ奴に挑戦してみるのであったが、凡庸の悲しさ、ただ自失して遁走するの芸当しか知らなかったのは、返す返すも残念である。
 さて、昔の若き友人は老友となって、私の病床を慰めながら語るに、僕の村の一青年が、数日前の夜、この村に用事があって夜半まで話し込み、星明かりをたよりに、野路を東箱田の方へ帰ってきた。
 折柄、浅間|颪《おろし》が寒く刈田の面に吹き荒《すさ》んで、畑では桑の枯枝が、もがり笛のように叫び鳴く。青年は袷《あわせ》の襟を押さえながら急ぎ足でやってくると、殿田用水の橋の真ん中に、大しゃもじが路を塞いで立っているではないか、あっとのめって、そのまま
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