のあたりをぶらついていると、それを聞きつけて、小みどりは庭へ走り出てきた。
やあやあ、お隣のお嬢さんですか。
あら、お嬢さんなんて、はずかしいわ。
仙公は、小みどりをわが室へ招じ入れたのである。小みどりは、まだおぼこであるとはいえ宴席へ侍《はべ》るのがしょうばいであるから世の生娘とは違って、大して人怖じはしない。招じられるがままに仙公の室に通ったのである。
貴嬢の詩は、大したものですなあ、女であれだけ詠めちゃあ凄い。
あら、お恥ずかしい、あなたこそ――。あたし、すっかり魅せられてしまいましたわ。
こんな次第で、二人はそれから懇《ねんご》ろに交際するようになったのである。ある日、小みどりは仙公を、訪ねてきて改めてまじめな顔になり、
あなたは、奥さんはおありなんですか。
と、だしぬけに質問を発したのである。
じょうだんじゃありません。僕はまだ学生ですよ。結婚なんてまだ将来ですよ。
あら嬉しい。でも、どうしてまだ結婚なさらないの。
この質問に、仙公返答に窮したが、
貴嬢のような美しいお方と思っているのですがね、理想の人というものは、めったにいるものではありませんからね
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