のあたりをぶらついていると、それを聞きつけて、小みどりは庭へ走り出てきた。
 やあやあ、お隣のお嬢さんですか。
 あら、お嬢さんなんて、はずかしいわ。
 仙公は、小みどりをわが室へ招じ入れたのである。小みどりは、まだおぼこであるとはいえ宴席へ侍《はべ》るのがしょうばいであるから世の生娘とは違って、大して人怖じはしない。招じられるがままに仙公の室に通ったのである。
 貴嬢の詩は、大したものですなあ、女であれだけ詠めちゃあ凄い。
 あら、お恥ずかしい、あなたこそ――。あたし、すっかり魅せられてしまいましたわ。
 こんな次第で、二人はそれから懇《ねんご》ろに交際するようになったのである。ある日、小みどりは仙公を、訪ねてきて改めてまじめな顔になり、
 あなたは、奥さんはおありなんですか。
 と、だしぬけに質問を発したのである。
 じょうだんじゃありません。僕はまだ学生ですよ。結婚なんてまだ将来ですよ。
 あら嬉しい。でも、どうしてまだ結婚なさらないの。
 この質問に、仙公返答に窮したが、
 貴嬢のような美しいお方と思っているのですがね、理想の人というものは、めったにいるものではありませんからね
前へ 次へ
全22ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング