痛飲して、蹌踉《そうろう》[#「蹌踉」は底本では「蹌跟」]として帰って行った。
隣の家は、芸妓置屋である。六十に近い老女が主人で、数人の妓を抱えて置くが、なかに最も美しい、若い妓は、老女の実子である。つまり娘だ。幼いときから雛妓として仕込んだけれど、賎業の方は固く禁じていた。だから芸妓であっても生娘だ。
この花街では、この娘を誰が手折るであろうということが評判になっていて、ひく手あまたである。ところが母も娘もまるでそんなことはとりあわず恬然として弾きかつ歌うのが専門であった。
名は小みどりと呼び、三絃、笛、太鼓はもちろんであるが、婦芸一般に精をだし、書を読むことも人後に落ちない。そして麗容|薔薇《ばら》を欺くというのであるから、大したものである。
翌朝、小みどりは庭下駄を突っかけて、花壇へ花を折りに出ると、墻の近くになにか丸めた紙が落ちているのを見た。拾って皺を伸ばしてみると、詩が書いてあるではないか。
詩の持つ意味は、未だ姿は見ないけれど、唄の主である自分を恋していること久しい。と、いう風にとれる。
仙公狸の方ではまだ小みどりの姿を見たことはないが、小みどりの方では、仙公
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