けた。この瞬間こそ、魔性が本体を現わす時だ。一同|片唾《かたず》を呑んで小みどりを凝視したけれど、一向に太い尻っ尾が出てこない。
もっと、水をかけろ。
武士は手桶から、瀧のように水をかけたが、小みどりはやはり小みどりのままで、長く伸びている。
よほど年をへたしぶとい狸と見える。もっと、棒で叩いてみろ。
屍体の骨が折れるほど、棒で撲った。しかし、やはり人間であって、雌狸とはならない。
怪しいことだ。或いは見当違いであったも知れないが、火をかければ熱さに堪えかねて、大狸となって走りだすかも知れない。ということになって、例の如く小みどりの屍へ粗朶を積み油をかけて火を放った。
けれど、さっぱり妖物とは化さぬのである。やがて、屍も粗朶の山も、灰となってしまったのである。ところで、灰のなかを掻きまわしてみると、前回と同じように、ふにゃふにゃした一塊が、焼け残っているではないか。
もう東の空に陽《ひ》が上がった。朝の雲は静かである。
一人の侍が、そのふにゃふにゃを下駄で踏むと、前回と同じに、人間の形をなして小さなものが飛び出した。水で洗ってみたところ金色燦爛とした指頭大の、まがうかた
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