た姿の裾からこぼれんとする。恰《あたか》も、雨にうたれた牡丹が、まさに崩れんとする風趣である。
 その方は、狸であろう。
 と、雀右衛門は小みどりを、にらみつけたのである。それをきいて小みどりは、あまりの風変わりの訊問なのに、わが耳を疑う表情で、雀右衛門を仰ぎみた。
 これ雌狸、正体を現わして神妙にしろ。
 とんでもない、わたしは狸などではありません。
 畜生の分際で、お上の役人をたぶらかすとは僭上至極。既に、その方の相棒たる雄狸は成敗相済んだ。今度は、汝の正体引きむいてくれる。
 いいえ、わたしは決してそんな魔性のものではありません。なにとぞ、お許しなされてくださりませ。
 狸扱いを受ける小みどりは、あまりといえば突拍子もないお調べに、気も転倒せんばかりに泣き伏してしまった。
 ほざくな、狸。それっ!
 雀右衛門が一喝すると、数人の武士共は、手に手を棍棒を振り上げて、小みどりの頭から背中、お尻の方へかけて、滅多打ちに打ち据えたから、繊《か》弱い女子の身の、間もなく[#「間もなく」は底本では「問もなく」]呼吸が絶えてしまったのである。
 例によって一人の武士が、小みどりの頭から冷水をか
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