それを棒で掻き出し、眼を近よせて見ると、狸の肝《きも》らしい。庭下駄で蹴った。
すると、ふにゃふにゃぬるぬるした肝のなかから、妙なものが飛び出した。蝋燭《ろうそく》の火を近くへ寄せてながめると、正に人間の形を備えているではないか。
大きさは、拇《おや》指の頭ほど。
雀右衛門は、それを水で洗わせた。付いていた汚物が落ちると、それが黄金色に燦然《さんぜん》として輝いた。
試みに指を触れると、その感じは金属のようにして、堅きこと玉の如しである。衣類から足袋《たび》、顔形から眉髪に至るまで、小みどりの婉姿にそっくりそのままである。
あまりの珍事に雀右衛門は、それを掌に載せて眼を瞠《みは》ったまま、しばし言葉がなかった。しかし、すぐわれに返って、
古今未曾有の怪事であるぞ。あの雌狸をここへ連れ来たり一刻も早くあれも殺してしまえ。
夜半から、はじまった仙公騒動であったから、もう黎明近かった。やがて、東雲《しののめ》がうすぼんやりと、淡色を彩った。
小みどりを、同じ白州へ引き据えた。友禅模様の、めざむるばかりにあでやかな長着、緋縮緬《ひちりめん》の長|襦袢《じゅばん》が、いましめられ
前へ
次へ
全22ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング