うへっ!
武士共は、顔色変えてうしろへ飛び退いた。雀右衛門の手は刀の柄《つか》を握った。
奇っ怪なり変化。
雀右衛門はこわごわ、白州へ下りてきて、古狸を蹴ってみたが、やはり狸である。藷俵《いもだわら》ほどもある大睾丸が、股の間からだらりと伸びたれていた。
人間が、狸を情人に持つとは、昔からきいた例しがない。ことによると、あの小みどりは雌狸かも知れないぞ。逃がすな、それっ!
吉野の下知《げじ》に、武士共は離れ座敷へ駆けつけて、泣き叫ぶ小みどりを、厳しく括り上げたのである。
妖怪変化は、そのまま葬っては、幽冥界から再び帰ってくる虞《おそ》れがある。まず皮を剥いで取って置き、骸《むくろ》は油をかけて焼いてしまえ、これ者共。
仙公狸の骸を白州から庭へ引き出し、上から粗朶《そだ》を積み、油をかけて火を放った。自ら承知の上とはいいながら、人間を恋したばかりに、あえなき狸の最後であった。
ところで、山と積んだ粗朶も焼け落ち、油も燃えてしまってから、灰掻きわけてみると、狸の肉も骨も共に灰となっている。だが灰の中に、なにかふにゃふにゃしたものが残っている。
奇っ怪に思って、一人の武士が
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