うへっ!
 武士共は、顔色変えてうしろへ飛び退いた。雀右衛門の手は刀の柄《つか》を握った。
 奇っ怪なり変化。
 雀右衛門はこわごわ、白州へ下りてきて、古狸を蹴ってみたが、やはり狸である。藷俵《いもだわら》ほどもある大睾丸が、股の間からだらりと伸びたれていた。
 人間が、狸を情人に持つとは、昔からきいた例しがない。ことによると、あの小みどりは雌狸かも知れないぞ。逃がすな、それっ!
 吉野の下知《げじ》に、武士共は離れ座敷へ駆けつけて、泣き叫ぶ小みどりを、厳しく括り上げたのである。
 妖怪変化は、そのまま葬っては、幽冥界から再び帰ってくる虞《おそ》れがある。まず皮を剥いで取って置き、骸《むくろ》は油をかけて焼いてしまえ、これ者共。
 仙公狸の骸を白州から庭へ引き出し、上から粗朶《そだ》を積み、油をかけて火を放った。自ら承知の上とはいいながら、人間を恋したばかりに、あえなき狸の最後であった。
 ところで、山と積んだ粗朶も焼け落ち、油も燃えてしまってから、灰掻きわけてみると、狸の肉も骨も共に灰となっている。だが灰の中に、なにかふにゃふにゃしたものが残っている。
 奇っ怪に思って、一人の武士が
前へ 次へ
全22ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング