姓家の第《やしき》に下宿していたのである。百姓家のお婆さんが第の方へ案内してくれた。
三人は校長先生に、とぎれとぎれに拙い言葉でつぎはぎに、旅に出た由来を申しあげた。そして、最後にこの短冊を買って頂きたいと、恐る恐るお願いしたのである。
ちょうどその頃は、学生の無銭旅行がはやった時代であったから、校長先生は別段驚いた風もない。気軽に、
『そうか――わしも、俳句は好きだ。どれ、みせてごらん』
と、言って短冊をとりあげ、
[#ここから2字下げ]
木瓜剪るや刺の附根の花芽より
[#ここで字下げ終わり]
と、読んだ。そして、しばらく首を傾げていたが、
『まずいなあ、この俳句は――』
こう言って、眉と眉の間へ皺をよせるのである。
『はい』
私は、面目なかった。顔が、かっと熱くなった。それはただ、俳句の拙《つたな》かったのが面目なかったばかりではない。この場合、そのために短冊を買って貰うことができなかったら、どうしようかと思ったからだ。
玉汗も、銀平もべそを掻いている。校長先生はそれをみて気の毒になったらしい。
『まあ俳句はどうでもいいが、こんなに暗くなってから碓氷峠を越す気かい。越
前へ
次へ
全25ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング