せまいな――そこでどうだ。こんなせまいところで辛抱する気なら、こん夜ここへ泊まっていったらどうだい』
まことに、予期に反した親切な言葉である。三人は口を揃えて、
『はい』
と何の猶予も、考慮の風もなく、声を返すように答えた。
『そうだろう。急ぐ旅でもなさそうだ』
そのときほど嬉しかったことを、かつて経験しない。恐らくこれから先もあるまいと思った。
三人は、足袋の埃を叩いて座敷へ上がった。校長先生は、小型の南部の鉄瓶から自分で茶をいれてくれた。先生は、茶をのみながら俳論をはじめた。ところが静かに聞いてみると、校長先生は私らよりも、よほど造詣が深かった。私らは感服して、首を前へ傾げた。
が、私はそれから二、三十分たつと自分の胃袋が、ぐつぐつと鳴るのを聞いた。胃袋が鳴るのに気がつくと、頭がじんじんするほど空腹を感じてきた。まことに相済まぬことだが、そうなると先生の声が耳へうつろに響く。
五
――何とか、飯のことを言い出してくれそうなものだな――
と、そればかり考えた。
――だが、俳諧の好きな人は、わりあいのんき者が多いから、そんなところへ気がつかないかも知れない
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