――
などとも考えてみた。それは、心細い思いまわしだ。結局先生がそこへ気がつかなければ、このまま寝かして貰うよりほかに順序はない訳である。
しかし、そう簡単に見限るものでもあるまい。何とか苦心してみるのも、手段であると考え直した。
そこで私は、きょうの昼飯は、さつま芋の蒸したのを五銭買って三人で分けて食べただけだ、というようなことを遠まわしに話した。俳論に夢中になっていた校長先生は漸くそれをさとったのであろう。
『つい、忘れていたが諸君、晩めしはどうした』
と言った。
先生は無頓着だとこちらで勝手にきめて気を落としてしまわないのが幸運であった。つまり、私の遠まわしが、効を奏したのである。
ところがだ、何たることだろう。貧乏でありながら、日ごろ見え坊ではにかみ屋の玉汗は、眼と眼で私らに何の打ち合わせもしないで、
『いえもう、さきほど途中で済ませました。ご心配くださいませんで――』
と、やってのけた。私は、ぎっくりして横眼で、きつく玉汗を睨めた。けれど、玉汗にはそれが何のための私の表情であるか分からない。私の心胆を砕いた遠まわしも水泡に帰した。もう取り返しがつかないのだ。
『
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