そうかね、それじゃあ、まあ何もかまわんことにするから、眠くなるまでゆっくり話そう』
情けない言葉だ。
そこでまた、校長先生の口から碧梧桐の新傾向論がはじまった。それに続いて、元禄のころこの碓氷峠の裾に、芭蕉の弟子となった白雄という俳人がいた、という昔話になったのだが、口から綴り出すその糸のような言葉の、長いこと。
私は、空腹が睡気に変わってきた。先生の話を感服して聞く誠実さがなくなった。玉汗一人が眼鏡を拭きふき、まことしやかであるだけだ。
そこへ、母屋の方のお婆さんが、唐黍《とうきび》の焼餅を、大きな盆に山ほど積んで、お茶うけに持ってきた。この座敷の寒い空気に触れて、白い湯気がおいしそうに焼餅から立ち揺れる。
眼が、急に輝いた。三人は、競うように大きな焼餅を貪り食った。――もう、晩飯はすんできた――という三人を、校長先生は呆れ顔で見ていた。
翌朝、一升五合炊もはいろうと思う大きな米櫃《こめびつ》へ、白い飯を山盛りいれて出してくれた。そのときの、下仁田葱の熱い味噌汁の味がいまでも忘れられない。給仕に出たお婆さんが、味噌汁を替えに行った留守、三人はひそひそと、
『きょうの昼めし
前へ
次へ
全25ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング