餅布団《せんべいふとん》にくるまって寝たのである。寝るとき玉汗は、飯が凍るといけないからと言って、米櫃を自分の床の中へ抱え込んだ。行火《あんか》の代用にするつもりであったかも知れないと思ったのである。
 寒い夜があけて、朝となった。屋根の穴に、あかい朝の光がさしているが、指先が痛むほど温度は下がっている。誰も浄水《じょうすい》を使いに行こうというものがないのだ。そこで私は、お神さんからお茶の一杯も振る舞って貰ってから早く朝飯にしたいと考えているが、玉汗と銀平は妙に落ちつき払っている。
『どうだい。そろそろ、めしにしようじゃないか、諸君』
 と、私は言った。
『…………』
 二人とも、何とも答えない。
『ひどく沈着に構えているじゃないか――ゆんべの味噌が少し残っているはずだ』
 私は、こう言いながら玉汗が寝捨てた布団にくるまっている米櫃を取りに行こうとすると、二人は一時にどっと笑い出した。そして玉汗は眼鏡を羽織の裾で拭きながら、
『味噌もめしも、ないよ』
 と、言うのだ。玉汗は不必要に眼鏡を拭うくせがある。
『なぜ?』
『夜なかに、二人で食っちゃったよ』
 これは、銀平が言うのだ。
『あ
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