ど、屋根の穴から通う風に冷やされて、さっぱり室は暖かにならないのである。空腹が手伝うから、からだが、がたがたふるえが出る始末だ。
 やがて、温かいご飯が炊けてきた。お神さんがサービスに沢庵《たくあん》と生味噌を、小皿に一つ添えてくれたのである。
 米櫃の蓋をあけると、玉汗はまず杓子《しゃもじ》でご飯を二つに分けて、一方を蓋に移した。それには理由があるのだ。元来、私は大めし喰いなのである。そして、掻っ込む速力がはやい。気ままにして置けば、人の二倍は食うであろう。それを、玉汗は前々から心得ている。だから、なるべく公平に、なるべく有効に、という風に思案したのに違いない。玉汗は、その作業が終えてから、
『君、蓋の方は今夜たべて、お櫃《ひつ》の方は明朝たべることにしよう。今夜、全部平らげてしまうと、あすという日が思いやられる。諸君よろしいか』
『よかろう』
 銀平は即座に答えたが、私は黙っていた。五合の飯を血気盛りの三人で食べたのであるから、それは大蛇が蚊をのんだようなものだ。さっぱり腹がくちくなってもこないし、からだが暖かになってもこない。
 空になった蓋を、米櫃の上にのせた。そして、三人は煎
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