もの、一度も理髪屋へ行ったことがない。髪が汚く伸びて、ふわふわと肩のところまで垂れ下がっている。手の指も細いのだ。
『いや、浪花節じゃありません。ちがいます、ちがいます』
と言って、三人で極力弁解したが、なかなかお神さんは承知しない。俳行脚の者であると説明したところで、こんなお婆さんに理解がゆく訳がないのだ。
『嘘ついても駄目だ。わしには、ちゃんと分かっているがに、後生だ、一席きかしておくれんさい』
こんな次第である。が結局、ほんとうに浪花節語りでない者は、何とお神さんが頑張っても無駄である。そこでそのまま、一晩だけ泊めて貰うことになった。
八
三人は広い一間へ通された。ところが驚いた。
その室の天井は、半分腐って剥げている。屋根には、大きな穴があいて星が見える。剥げた天井の下の畳二、三畳は、雨に腐って溶けているのだ。雪もよいの空は、さつま芋を分けて食べた頃から模様が変わって、いまでは降るような星空になっている。だから、夜になってから寒気はきびしい。こんな一間でも、小さな爐が切ってあって、お神さんが釜の下の焚きおとしを十能《じゅうのう》に山ほど持ってきてくれたけれ
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