足りるだろう。ぜにをこっちへ出しな、わしが買ってきてやる』
『はい』
『ところで、木賃の方は八銭ずつ、都合二十四銭。みんなで四十一銭でがんす』
 ひどく胸算用の達者なお婆さんである。私たちは、お縋《すが》り申すという態度で、小さくなって框へかけた。玉汗が、先刻貰った五十銭銀貨を、お神さんに渡した。
 そこで、すぐ米を買いに行ってくれると思ったところ、漸く安心したらしいお神さんは、顔の皺を伸ばして、続いて私たちに言うに、見るところお前さんたちは、浪花節だろうね。浪花節はわしも好きならこの村の人たちは誰でもみんな好きだ。ところで、今夜お前さんたちがわしの店で一席やれば、村の人を大勢集めてきてお鳥目《ちょうもく》を貰ってやる。そこで、この五十銭はお前さんたちに返してもいいことになるのだがどうだい奮発して面白いところを一席やってみないかね。五十銭はここへ置くよ。
 これは、飛んでもないことになってきた。だが、私らは浪花節にみえるのかも知れない。三人は、頭の毛が伸びている。殊に私は、羊羹《ようかん》いろの斜子《ななこ》の紋付《もんつき》を着ている上に、去年の霜月の末に、勤め先を出奔して以来という
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