、夕暮れに近い。
七
追分の宿へ着いたら、夜になった。
馬子唄に唄う、
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浅間さんなぜ焼きやさんす
裾に十七持ちながら
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の唄で知られる宿場遊廓の、古い大きなもう滅びて誰も住んでいない建物の前を過ぎて行くと宿のはずれであろうと思うところで、村役場の看板を発見した。門から覗いてみれば、小使室らしい爐《ろ》のなかで、榾火《ほたび》があかあかと照っている。しめた、と思った。
そこでまた、銀平の決心を促すことになったのである。けれど、一番若い銀平ばかり苛《いじ》めるのは、いけないということになった。そして、三人一緒に小使室の土間へ入って行って、私が小使さんに訳を話して、
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春の川 鰔《うぐい》むらがり 遡りけり
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と、書いてある短冊を出した。小使さんは、それを受け取りながら、ひとりごとのように、
『こんなのが、この頃よくくるなあ――』
と、呟いて事務室の方へ持って行った。事務室は、暗いが誰かいるとみえる。
しばらくすると、事務室の窓の硝子戸が開いて声がした。
『君
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