もない。いい気持ちである。
――さすがに、俺は父の子である――
と、思った。生まれてはじめて口にした酒を、正味三合ぺろりと酌んでしまったのには我れながら驚く。しかも、飲み抜けていま酔態を演じているとも考えぬ。
――俺は、酒の天才かな――
ひそかに、こんなことを感ずる。それから女中を呼んで、飯を盛らせて静かに食べた。
四
酒の天才など、何の役にもたたない。とうとう私の一生は、酒のために祟《たた》られてしまった。
『本朝二十四孝』八人の猩々講《しょうじょうこう》に――波の鼓の色もよく、長崎の湊にして猩々講を結び、椙村のうちに松尾大明神を勧請中、甘口辛口二つの壺を[#「壺を」は底本では「壼を」]ならべ、名のある八人の大上戸|爰《ここ》に集まる。大蛇の甚三郎、酒呑童子の勘内、和東坡の藤助、常夢の森右衛門、三人機嫌の四平、鈎掛升の六之進、早意の久左衛門、九日の菊兵衛この者共の参会、元日より大年まで酔の覚めたる時もなく、いつとても千秋楽は酒のみかかる時うたうて仕舞、兎角正気のあるうちは、身を酒瓶の底にしづめ、万上のたのしみ是にきはめける――
と、あるが私の身にとっては、酒
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