酒渇記
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)海豚《いるか》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大|鮪《まぐろ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「竹かんむり/均」、第3水準1−89−63]庭
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     一

 近年、お正月の門松の林のなかに羽織袴をつけた酔っ払いが、海豚《いるか》が岡へあがったような容《さま》でぶっ倒れている風景にあまり接しなくなったのは年始人お行儀のために、まことに結構な話である。また露地の入口に小間物店を開いた跡が絶えて少なくなったのも衛生上甚だ喜ばしい。
 それというのは、ご時世で物の値が一帯に高くなり酒ばかり飲んでいたのでは生活向きが立たなくなるという考えが、飲み放題のお正月へも影響してお互いに控えましょう、となった結果であると思う。松の内くらいは、などと意地汚いのは時代に副《そ》わぬものだ。お互いに、物の消費を少なくして、国家経済の向かうところに従ってゆこうではないか。だが、理屈は抜き
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