》してこそ、味聖の心を知り得るのである。
 筆者の経験したところによると、鮎の品質と岩質には深い関係があると思う。つまり、鮎の育った川の石の質によって、味と香気とに確然とした差が生まれてくるというのである。もとより筆者は、動物学者でも地質学者でもないから、科学的に示すわけにはいかないが、多年眼に川を見、舌に鮎を味あわせてきた識感が、我れから我れに物語る。
 水源地方に、古生層つまり水成岩の層を持った川の鮎は品質が上等である。これに引きかえ、水源地方の山塊が火成岩である川に育った鮎は味も劣り、香気も薄い。殊に、河原に火山岩が磊々《らいらい》としている川の鮎は、まことに品質がよくないのである。これは、古生層の岩の間から滴り落ちる水は、清冽な質を持ち、それから発生する水垢は、少しの泥垢も交えないので純粋であるからよく鮎の嗜好に適している。ところが、火成岩の山塊を水源とする川の水は、水成岩のそれのように清冽ではない。従ってそこに発生する水垢の質は上等とはいえないのである。
 そればかりではない。川底にある水成岩の石の面は滑らかであるから、鮎が石の面の垢をなめるに都合よくできている。これと反対に
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