香魚と水質
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)好厭《こんえん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)性食|渾然《こんぜん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)厚さ[#「厚さ」はママ]
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 食事が、必要から好厭《こんえん》に分かれ、さらに趣味にまで進んできたのは、既に五千年の昔であるのを古代支那人が料理書に記している。必要と好厭は、動物の世界にある共通の事実だが食品を耽味《たんみ》するという道楽は、人間ばかりが持っている奢りらしい。
 新秋の爽涼、肌を慰むるこの頃、俄に耽味の奢りが、舌端によみがえりきたるを覚える。けだし古来、生は食にあるか性にあるか、と論ぜられるけれど、性食|渾然《こんぜん》としたところに人生があるのではあるまいか。だが、筆者は既に中老、性の方面はドライの域に入りて数年、いまはただ食味の方面のみ、人生の造営を眺めているのである。
 大根、菜、芋、茸などの姿を眼に描けば、皮下に肉脂溢るる思いがする。野菜の味品ほど人に親しまれるものは他にあるまい。魚獣の佳味、美器の艶谷を誇ったところで
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