升二円の酒を、一万二千六百円買えば、何升手に入りますか、と試問されても、頭がこんがらかり舌が吊ってしまって即座には返答ができないであろう。その退職金を懐中にし、途中で軽く一盃召し上がって、ひとまずいそいそとわが家へ帰った。

  二

 二階へ上がり、かたく家族の者を遠ざけ、一体百二十六枚の百円紙幣は、畳一枚にならべ得られるかどうかについて試してみたのである。ならべ終わって、私はにやにやとした。まさに豪華版であったのである。
 その豪華版も、僅かに半年の間に呑み干してしまった。遺憾なく、まことに綺麗に呑んだ。
 ついで、祖先伝来の田地田畑を売り、故郷の家屋敷まで抵当に入れてしまった。爾来、七とこ八とこと借り歩き、身寄り友人、撫で斬りである。
 同業内田百間は、借金の達人であるときいているが、彼とわが輩と対局しても、万が一彼に勝味があろうとは思わぬ。わが輩の腕前の方が筋がよろしいという自信を、固く持つ。
 だが、如何に確かなる腕前を持っていようとも、最後の取って置きの、きり札である恩人まで借りてしまっては、あとはもうどうにもならぬ。
 そこで、私は女房を攻めた。
 はじめのほどはてんで私
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