烏惠壽毛
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)様《さま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](昭和二十一年三月中旬記)
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 いよいよ、私は食いつめた。
 昔、故郷の前橋中学へ通うころ、学校の近くに食詰横町というのがあった。五十戸ばかり、零落の身の僅かに雨露をしのぐに足るだけの、哀れなる長屋である。
 住人は、窮してくると、天井から雨戸障子まで焚いてしまう類であったから、一間しかない座敷のなかの、貧しい一家団欒の様《さま》がむきだしだ。そこで、現在の戦災後の壕舎生活と、この食詰横町の生活と、いずれが凌ぎよかろうかと、むかし学生時代に眺めた風景を想い出して比べてみると、地表に住んで直接日光の恵みに浴するとはいえ、横穴の貉《むじな》生活の方が、戸締まりがあって寒風が吹き込んでこないだけ結構であろう。
 ところで、われわれ学生は、食詰横町を通るたびに、
 おいおいお前、試験のときカンニングはやめよ。
 と、連れの学友にからかうのである。
 嘘つけ、僕なんぞカンニングはやらないよ。やったのは君だろう。
 白々《し
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