て、うろんの眼でわが輩を見るには閉口だが、まだ一度も抗議は申し立ててこん。犬や豚と違って、猫はその筋へ登録してないのであるから、正面切ってわが輩に苦情を持ち込むちうわけには行かぬのであろうけれど、もし抗議があったらわが輩にも言い分はある。ちかごろはその抗議を密かに待っているような次第だ。
 どんな言い分を持っちょるな。
 先ごろからわが輩は竹垣の破れ目の傍らへ立札を立てた。猫族余が屋敷内へ入るべからず、もし侵したるときは、撲殺を蒙る虞《おそ》れあるべし、世の飼主注意せよと書いた。猫は字が読めぬから、引き続きやってくるよ。
 手前勝手の立札じゃわい。
 だが、近時猫の奴の少なくなったのには困却したが、今夏は越後国南魚沼郡浅貝付近の山中から、またたびの実を採集して来て、これを塩漬けにして蓄え、毎夜垣の破れ目の内側へ一箇ずつ落として置くと、俄然大いに成績を盛り返したね。
 あれは、人間の酒のつまみ物にもなるな。
 なにはともあれ、おしやます鍋見参ということにし給え。
 本草綱目を繙いてみると、猫肉はその味、甘酸にして無毒とあって、食法が書いてない。倭本草には猫性を指して、気盛んなるとき爪を磨
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