岡ふぐ談
佐藤垢石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蝗《いなご》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その味|甘膩《かんじ》なり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](二〇・一一・一九)
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 今年は、五十年来の不作で、我々善良なる国民は来年の三月頃から七月頃にかけ、餓死するであろうという政府の役人の仰せである。そんなことなら爆弾を浴びて死んだ方がよかったというかも知れないが、運悪く生き残ってしまったのであるから、なんとしても致し方がない。幸い、防空壕を埋めないで置いてあるから、いよいよ飢餓が迫ってきたならば壕の底へ長々と伸びて、いよいよそのままとなったら、簡単に上から土をかけて貰うことにしよう。
 そして、食い納めであるから、蝗《いなご》を捕ってきてくれと、娘に命じたところ、娘は小半日ばかり稲田のなかを歩きまわって帰り来り、今年は蝗がいませんと言って、茶袋を縁先へ投げ出したのである。見れば、袋のなかに僅かに十数匹の蝗が、飛び脚を踏ん張り合って、揉み合っているだけである。米が不作の年には、蝗まで不
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