作であるとみえる。十数匹の蝗を竹串にさして、塩をなすり、焚火に培って食べたところ、長い間動物性の蛋白質に飢えていた際であったから、素敵においしかった。
 私は、昨年の三月故郷の村へ転住してからというもの、一回も魚類や油類の配給を受けなかった。汽車の切符が買えないから、釣りには行けない。闇で鯖の乾物でも買って食べたいと思ったが、そんな手蔓《てづる》はない。
 そこで、娘に蝗を捕らせて食った次第であるが、動物を食べたのは数ヵ月振りだ。これで一盃あれば結構な話であるけれど、三月から十一月までに、ただの一回、僅かに二合の合成酒が配給されたのみ。
 明日から、自ら田圃へ出動して蝗を捕ることにきめた。蝗はもう霜に逢っているから羽が強くきくまい。何匹かは捕れるであろうと思う。しかし、世の中には蝗などいう虫けらは食わんと毛嫌いする人があるが、それは食わず嫌いというものだ。
 元来、蝗は関東から東北地方の人々が好んでよく食う。信州や北陸地方の人々も、酒の肴にする。支那でも盛んに食い、中央亜細亜方面では佳饌のうちに加えられてある。
 昔、京の禁裡から白面金毛九尾の狐を祈り払った陰陽博士阿部晴明は、母の乳よ
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