りも蝗が好物であったというから、彼は幼いときから蝗をむしゃむしゃ、やったものと見える。晴明は、信田の森の葛の葉という狐が生んだ子供であるという話だが、そういえば先年北軽井沢の養狐園を視察したとき、園主から狐は蝗をひどく好むという説をきいたことを記憶している。
予言者ヨハネは、蝗と野の蜜蜂を常食にしていたという記録がある。してみると、ヨハネも狐の縁戚に当たるかも知れないが、私の隣の家で飼っている猫は、素敵に蝗が好きで毎年秋がくると、鼠を捕るのを忘れて、田圃へさまよい出ては蝗捕りを専門にやっているという話だ。では、ヨハネは猫類にも血のつながりがあったのかも知れぬ。
ある日私が、縁先で蝗を串にさしていると、隣村から老友がやってきた。しばし私の手先をながめていたが、蝗などという気品の卑しい虫は食うものじゃない。と、抗議するのである。それほど、動物性の蛋白質に飢えているなら、わが輩が素晴らしいご馳走を進上しようと、同情ある口吻をもらすのである。
素晴らしいご馳走とは、なんじゃと問うと、猫じゃと答えるのである。すると、わが老妻が傍らでそれをきいていて猫を食べるのはおよしなさい。猫を殺せば七代
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