の通路ちうものは一定している。そこをこくめいに観察するのが、奥の手じゃ。わが輩は、わが輩の家と隣家との境をなす竹垣の破れ目が、猫の通路であることを先年発見した。
 どら猫も、きじ猫も、三毛も、ぶちも、虎毛も、黒も、灰色猫も、どれもこれもこの破れ目を通行する。細心なる観察を続けていると、隣の屋敷からわが輩の屋敷へ侵入してくる時は、必ずその路を通るが、帰りだけは、いずれも勝手の路を選んでいるらしい。尤も、帰り路には何か盗んで、棒切れや石塊で追い払われるのであるから、お成り街道ばかり歩くわけにはいくまいな。
 そこで、わが輩が考案したのは、締め縄だ。針金の十八番線ほどのものの一方を輪にして、それを竹垣の内側の破れ目へ、吊るして置くのだ。すると、猫の奴、隣屋敷から、ひょいと体を伸ばして破れ目を飛び越える途端に、首を針金の輪へ突っ込む。苦し紛れに前進したり、もがいたりすればするほど、針金の輪が強く喉を締め、食い込んで、ついに一叫の悲鳴だにあげ得ずして、はかなき最後をとげる段取りになる。
 凄き、手腕じゃの。
 ところが、近ごろ猫の奴が少なくなったは困った。そして、近所の飼主がわが輩の挙動に着目し
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