ぎ、喜ぶとき咽をならす、快きとき前足をもって面を洗う。他児を乳し、朝昼夕に変眼、鼻頭常に冷たく、死ぬとき身を隠し、またたびを好み、これをからだに塗りつける。と、あってこれにも料理の法がない。
そこで、ありきたりのすき焼き鍋に入れ、葱と春菊と唐芋とを加役として、ぶつぶつと立つ泡を去るために、味噌を落としたけれど、少しくさみがある。本朝食鑑には、その味|甘膩《かんじ》なりとあるが、期待したほどでもなかった。
次に、鍋に入れ水からゆでて、くさみを去るために、杉箸二本を入れて共に鍋に入れる。沸《たぎ》ったならば、目笊《めざる》に受けて、水にて洗う。別の鍋に、里芋の茎、ほうれん草を少々入れたすまし汁を作って置いて、それにゆでた猫肉を加え、再び火にかけて沸ったところを碗に分け、橙酢を落として味あったところ、これはひどく珍味であった。汁面に、細やかなる脂肪浮き、肉はやわらかくて鮒の肉に似て甘い。味は濃膩《のうじ》にして、羊肉に近い風趣があると思う。
さて、はからずも老友に、時節柄素敵な秘法の伝授を受けた。今晩から、猫捕りに精進しよう。北米寒地のインデアンは、食糧に困ってくると、橇《そり》犬の皮
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