ど、娘はそれを一笑に付して相手にならない。その後ぜひほしいという軍人さんがあって人を介して真剣に申し込んできた。母は今度こそ良縁であると見極めをつけ娘に最後の返答を迫ったのである。ところが、娘は相変わらずの態度である。母は怒った。お前をこのままの姿で置いては、母は死んでも成仏できないと、泣いて迫った。
 しからば、お前の好きな人があれば誰とでも結婚してくれと、最後の話となった。このとき娘は座を整えて、母に向かっていった。私は、世間の人と結婚するのは、もう真っ平です。ですが、私の理想の男となら結婚いたしましょうと答えたのである。母は喜んで、そうかお前にもし理想の人があるなら、誰とでもよい結婚しておくれ――ほんとうにお前、理想の人があるのかえ。
 娘は、黙している。
 あるのなら、この母にだけいってご覧、遠慮はいらないよ、お前の望むところも、母の望むところも同じですもの。
 娘はついに唇を開いた。あります。
 どんな立派な人。
 あの越後から来た炭焼男です。
 あっ!
 母は絶倒してしまった。
 娘は、男の純情に渇していたのである。富貴、安楽、それがなに物であろう。虚偽、虚栄。それは、鬼畜
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