込むことか。
叢林の若葉の色沢は、触れれば弾力を感ずるのではないかと思う。
六里ヶ原の浅絲の下には、幾本もの渓流が吾妻川の峡谷に向かって走っている。そこには、数多い山女魚《やまめ》が棲んでいて、毛鈎《けばり》の躍るを追い回す。殊に熊川渓谷の銀山女魚の味は絶品だ。
四阿《あずまや》山は、上信国境の峻峰であるけれど、遠く榛名の西の肩に隠れて姿を出さない。しかし両毛線の汽車に乗り、新前橋駅を発して高崎駅へ向かう途中、日高村の信号所の前後からは、僅かに頭の一端を遠望することができる。それも、まだ残雪の濃い早春の、穏やかに晴れた朝でないと、他の群峰に紛れて、しかと判別することができぬ。ほんの、拳ほどの大きさに、白い頭が覗いているだけである。
浅間の東南に続くのは、角落や妙義の奇山で、これは誰にもなじみ深い。わが村から真西に卓子のように平らに横たわるのは、神津牧場の荒船山である。荒船山の右の肩から奥の方に、雪まだらの豪宕《ごうとう》の山岳が一つ、誰にも気づかれぬかに黙然と座している。これが、信州南佐久の蓼科《たでしな》だ。
それに連なって、西南の空は遠い峻岳高峰が居並び、まことに絢爛たる
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