後、天に沖《ちゅう》する大噴煙の躍動である。ドンと爆音が耳に谺《こだま》したと同時に庭前へ飛びだして西の空を望むと、むくむく灰色の大噴煙の団塊が、火口から盛り上がるのを見るのである。それから一秒、二秒。煙の団塊は天宙に向かって発展し、入道雲のようになって丸く太く高く、高く突っ立つ。
煙の尖端が天に沖して、ある高度まで達すると、その尖端は必ず東の空へ向かって倒れるのである。東の風の吹く日に爆発したとすれば、爆発直後、煙はある高度までは西方に傾きつつ天に沖するが、さらに高度を高めて一定のところまで上がると、煙の尖端は必ず反対に東の空へ向かって流れはじめるのである。
そこで我々は、なるほど煙は一万尺の高度に達したなと思うのだ。つまり、煙が必ず東へ向かって流れる一定のところが、成層圏に近いのであるかも知れぬと察するのである。
浅間の中腹の肌に、瘤のように膨れ上がったのは小浅間である。小浅間から北方へ、なだらかに下れば、はてしもなくひろがった六里ヶ原だ。五月下旬の六里ヶ原の叢林は、漸く若葉が萌えたつ時だ。茶、黄、燻し銀、鼠、鬱紺、淡縹、群がる梢に盛り上がる若葉はなんと多彩な艶に、日光を吸い
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