か、特幹でも志願したか。特別攻撃隊の卵にでもなっていたであろう。
上新田から見る五月の落日は、榛名山の西端にかかる。初夏の厚い霞を着た入陽《いりび》は、緋の真綿に包んだ茶盆のように大きい。麓の遠い村々にはもう夕べの炊さんの煙が、なびいている。
西の空には、煙の浅間山が浅間隠し山、鼻曲がり山、碓氷峠などの前山を踏まえて、どっしりと丸く大きく構えている。一体、浅間山は南向きなのか、東向きなのか、前掛山は、山の中腹から南方へ向かって掛かって見える。
浅間山は、わが地方の気象台である。明日の晴雨、風雪は浅間山が最もよく承知しているのだ。日中、浅間の煙を望んで、東の空か東南の秩父山の方へ流れていれば、明日は太鼓《たいこ》判を捺したように晴天である。もし、煙が山肌を這って東へ降りれば、明日は強暴雨戸を押し倒すほどの浅間颪。
ところで、噴煙が火口からすぐ北に向かっていれば、明日の午後か明後日は必ず雨が到来するか、静穏な天候が一両日続くものと判断して差し支えない。だから、秋晴れの日の越後の国の空へなびく煙を眺めれば、明日の釣り道具の用意をはじめて結構だ。
なにはともあれ、浅間の壮観は、爆発直
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