自然の懐ろに抱かれ、心豊かに幸福に暮らしているらしい。
人間にとって、故郷ほど肌ざわりの滑らかな里はないのである。しかも友は、二人の子供の育成に、眼も鼻もなき喜びに耽っている状が書翰の文字の間に、彷彿として現われている。
子供と故郷のうるわしき野山、子供と鮮やかな草樹を着た大自然。
読み終えて、巻くともなしに手紙を掌に持ったまま、私の冥想は徐《おもむろ》に、さまざまの方へ向かっていった。
そして最後に、なぜ日本人は純情であろう、かということが頭にうかんだ。窓外に、五月の緑風が、輝く若葉を繙いていく。
日本人の、純情を培ったものには、数多い素因があるであろう。
しかし、私が最も有力なる素因として感じているものに、国土の美しき風景、山川草木がある。つまり、潤麗にして、豊艶なるわが国の風景が、人々を純情に育てきたったのであろう。さらにそこへ一つ、郷党の親愛こまやかなる情合いをも、素因として加えたい。
この美しき国土を愛すればこそ、我々日本人は清いのである。晴温なる空の色、かぐわしき野の匂い、清楚な水の流れ、情味の芳醇な山の姿。どうして、こんないい国を亡ぼすことができよう。人々の
前へ
次へ
全30ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング