れて、利根の流れへ鮎釣りに行った。利根の崖に、楢《なら》の若葉が天宝銭ほどの大きさに、育っていたのである。
この山脈の上にはもう五月に入ると、いつも鈍い銀色の、雲の峰が立つ。そして積乱雲は、夕|陽《ひ》を映し受けて、緋布のように紅く輝くのを、私は子供の時から眺めてきた。しかしこの雲の峰に、決して上州方面へは雷雨を齎《もたら》さない。いつも、東の空へ長く倒れる。多分、下野国の耕野を白雨に霑《うるお》すことであろう。
それから東北に眼を送ると足尾の連山が、赤城の長い青い裾から、鋸の歯のように抜けだしている。足尾山は、中宮祠湖畔の二荒山や、奥日光の峻峰を掩い隠しているけれど、わが上新田から一里半ばかり南方の玉村町近くへ行くと赤城と足尾連山の峡から奥白根の高い雪嶺が、遙かに銀白色の光を放っているのを眺め得よう。
足尾山の左は、わが赤城だ。私の村からは、真北よりも東に位置して、前橋の街を裾の間へ掻い込まんばかりにして聳えている。
赤城について説明するのは、いらぬことであろう。上州人は赤城山について、知り抜いている。しかし、わが村から仰ぐ赤城の偉容は、わが村人だけが知っている姿だ。
上新
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