れど、どこでも職がみつからない。もう、身に一銭の蓄えもなく、この先どうして生きていこうかと、寺の前の田圃で思案に耽《ふけ》っていたが、とうとう決心してお寺様の弟子にして頂きたいと考え、だしぬけではありながら、お訪ねした次第です。と正直に言ってみた。すると老女は、これを聞き流したまま、何とも答えないで奥の方へ引き返して行った。
しばらく待っていると、こんどは先ほどの老女と共に、黒い衣に白い足袋をはいた六十の坂を越したらしい、眼の細い物静かな老僧が出てきた。
三
お志のほどは、いま聞いた。だが立ち話ではどうにもならぬから、上がって頂いて篤《とく》と相談してあげたいのだけれど、京に用事があって今から出かけるところである。夕方には戻ってくるから正五時に来てくれ、と親切に言ってくれた。
私は恭しく幾度も頭を下げた。
夕方までの時間を、淀川堤の草の上で消すことにした。空に一片の雲もない日であった。西の方、愛宕山に続いた丹波の山々は低い空に、薄い遠霞を着ている。木津川の上流と思える伊賀の国の連山も遠い。淀の水は、白い底砂の上を、音もなく小波を寄せて私の眼の下を流れている。堤の若
前へ
次へ
全17ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング