岩代国の寒村では、近年狸の人工飼養が大分流行してゐる。県農会などでも大いに奨励し、農家も儲《もう》かることであるから誰も彼も狸を飼つてゐるのだが、儲け仕事は長く続かずこの一両年の時局柄で毛皮の売れ行が、とんと杜絶《とだ》えた。また飼糧の方も値上りで、この先狸を活かしては置けない。それ/″\狸を処分しなければならないのだが、毛皮の方はあきらめるとして、肉の方だけはこの際なんとかなるまいか、東京では、なにかと代用食が流行つてゐるさうだ。狸も、その仲間入はできまいか。若し、狸肉がなにかの代用食になるとすれば、彼氏もまた時節柄バスに乗り込めたことになる。日ごろ睾嚢《こうのう》八畳敷を誇り大風呂敷をひろげて人を騙《たぶ》らかしてゐた狸公も、聊《いささ》か国家のために尽すところの一役を与へられゝば幸甚であると、故郷の村からつい二三日前手紙があつたばかりだ。
ところで、僕等友人数名が試食した上、これなら食へると感じたなら、一番この際狸公を世の中へだしてやらうではないか、と友人は熱心に説明するのであつた。私も、一応なるほどと思つたのである。
四
私が、友人の説明に対する答へに、一応と言
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