《ひらん》まことに喩《たと》ふべからずと言ふのである。さらに加役として支那|芹《せり》と菊の華をあしらひ、次いで餅と狸の肉を入れるのだ。
つまり、広州の三蛇会料理と言ふのは、日本のちり鍋で、へびちりとかたぬちりとか呼んでいゝのかも知れない。こんなわけで、狸は支那の代表的料理の主役を勤め、第一その肉は人の肺気を強くし、脾《ひ》胃を補ひ、皮は裘《かわごろも》を製し、骨は邪気を除くと本草に見えてゐる。さらに狸は、冬月に極肥し、山珍の首なりと説明してあるから、狸汁に憧憬する者、豈《あに》われ一人ならんやと、多年思つてきたのであつた。
ところで数年前ある冬の夜、虎の門のさる料亭で狸汁の試食会をやると言ふ話を伝へきいた。私は待望の機きたれりとばかり、その試食会へ駈けつけた。集つてゐる人々の顔ぶれを見ると市内有数の割烹《かっぽう》店の主人、待合の女将《おかみ》、食通、料理人組合の幹部と言つた連中で、どれも一かど舌に自信を持つ者ばかりであつた。配膳《はいぜん》が終ると主催者が起つて挨拶《あいさつ》をはじめ、次いで長々と狸肉の味について、その蘊蓄《うんちく》を傾けるのである。
私には、その蘊蓄など
前へ
次へ
全17ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング