。一人が言ふに、家庭へ持ち帰ると細君の智慧《ちえ》で焼鳥風にやつてみることゝなり、肉を串にさして昆炉《こんろ》の炭火で焙《あぶ》つたところ、脂肪が焼けて濃い煙が、朦霧のやうに家中へ立ちこめ、その上に異様の臭気を発して居堪らず、細君と子供が真つ先に屋外へ避難、続いて自分も庭へ飛びだした。君は、随分ひでえものを俺に食はせたなあ、と恰《あたか》も私の責任でもあるかのやうに食つて掛るのだ。
 他の友人は、自分ひとりで平らげてしまふのは冥加《みょうが》に尽きるとあつて、三四人の親戚を呼び集め、銀狐のすき焼をやつたさうだ。ところが、親戚の人々はたゞ結構なお珍らしい御馳走でございますなあ、と賞めるばかりでさつぱり箸《はし》をださない。不思議に思つて、自分が先づ肉の一切を箸につまんで口に入れた途端、胸腑に悪臭が渦き起りむつと嘔気《はきけ》を催したとある。
 も一人は、或る料亭へ持ち込んでいろ/\と烹焼させたがなんとしても、食ひものにならない。ところで狐の臭気が、その後料亭のどの室へも浸み込んでゐて客を苦しめ、甚だ迷惑すると尻を持ち込まれたさうだ。他の連中の報告もいづれも不評。私は、竹の皮包を紛失して、
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