の皮を剥ぐ季節だ。次第によつたならば、少々位の狐肉は送つてくれるかも知れないと、気がついたからすぐ浅間山麓へ手紙をだし、千円の皮を残す銀狐は嘸《さぞ》かし肉もおいしからうとたよりしたのであつた。
 私の乞《こい》に対し、六里ヶ原の養狐場では、一匹一貫目以上もあらうと思はれる大ものを、而《し》かも二頭|菰《こも》包みにして送つてくれた。皮もついてゐれば、うまい話だがさうはいかぬ。裸の狐だ。忽ち十数人の友達が集つて、肉を刻みおよそ百|匁《もんめ》位づゝ竹の皮包に分けて、各々わが家庭へ持ち帰つたのである。
 一堂に会して試食しなかつたと言ふのは、銘銘家へ持ち帰り自由に料理して食つた方が、各人それ/″\異つた趣好によつて、狐肉の美味の真髄を探ることができるであらうと言ふ申し合せであつたからである。その夜私は、相憎他に会合があつたのでその方へ廻つたところ、不覚にも少々|酩酊《めいてい》したため、狐の竹包をどこかへ紛失してしまつた。
 まことに残念である。だが、いたしかたない。やむを得ないから、友人に試食の報告をきいて狐の風味を想像しようと考へ、二三日後数名の友人と会したのである。ところが、大変だ
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