の井戸端の大|盥《たらい》の中に活かしてあるすっぽんを指して、詳しく説明するのである。
二匹とも、四百匁位。何れも雄であったから盥の中で喧嘩して互いに噛み合い、甲羅の裾の柔らかい縁に噛みついた傷がいくつもできている。
――この二匹のすっぽんは、きのう料理した大すっぽんと共に僕の居村豊前国柳ヶ浦を流れる駅館川の上流安心院村の漁師が捕ったのを買ったのである。すっぽんを捕るには二つの方法がある。その一つは、水底の崖穴に棲むのに手をさし込み、手捕りにするのであるが、これは余程上手にならなければ捕まらない。他の一つは鯰や鰻を釣るのと同じような置き鈎をかけるのである。餌は大きな蚯蚓《みみず》か、泥鰌《どじょう》であって、すっぽんがいると見当をつけた淵へ延縄《はえなわ》式に一本の縄へ幾本もの鈎を結び投げ込む。前夜投げこんで置いて、翌朝縄を引きあげると、間のいい時には二、三匹も鈎に食いついている。このすっぽんは、その置き鈎で捕ったものだ。
すっぽんは暖国を好むものと見えて、四国、中国、九州地方に多い。関東から東北地方へかけては、昔からまことに数が少ないのである。九州には至るところに産する。けれど
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