味をつけ、碗に注いで根深《ねぶか》を細かく刻んで添える。口で吹くほど熱いのが、すっぽんの羮《あつもの》の至味であろう。
料亭の調理には鰹節、昆布、味の素、鶏肉スープなど加味するのがあるけれど、そのような補助味を用いると、すっぽん本来の風味を消して烹調の法に適《かな》っていない。
煮こごりが素敵である。晩秋から冬へかけて、すっぽんの羮を一夜置くと翌朝は煮こごりとなっている。これは、酒の肴として絶品の称がある。夏の間でも、冷蔵器に入れて一夜置けば同じことだ。また、佃煮にこしらえるのもよろしい。肉と臓腑と頭、手、足、甲羅の縁などを細かく刻み込み、これに薑《はじかみ》を加えて生醤油を注ぎ、炭火で気ながに煮詰めるのであるが、こんな贅沢な佃煮は他にはないかも知れぬ。
私が杯を傾ける間、蝶子夫人はこんな風に細々とすっぽんの割烹について語った。そして最後に、父が豊前国から持ってきたすっぽんは、まだ二宮の家に二匹飼ってある。都合がよかったならば、出かけて行って一度見ておいては如何《いかが》であるか、と言うのである。
四
翌朝、私は二宮邸へ出かけて行った。ちょうど、重松代議士がいて裏
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