からだ。それから内臓や肉を腹の甲から切り離すのであるが、腸も捨てるには及ばない。すっぽんは生捕って後三、四週間も餌を与えないでおけば、腸の中は洗ったように清浄となっている。甲羅の固いところと胆嚢、膀胱のほかにすっぽんには全く捨て去るところがないのだ。
首も尾も四肢も、肉も臓も適宜の大きさに刻んで鍋に入れる。もし、裂いたすっぽんが一貫目位のものであったらこれに水四升ほどを注ぎ込んでよろしい。それから、炭火にかけてとろとろと四時間位煮る。こうして四升の水が半分以下に煮詰まった時、火から下ろすのであるが、もうその時は、すっぽんの味漿《みしょう》は悉く汁に出て、肉も何も綿のように柔らかくなっているのである。
つまり、これがすっぽんのスープだ。けれど、これに味付けをしてしまったのでは、汁が濃粘に過ぎて舌への刺激が強く、味覚が痺《しび》れてほんとうの風趣を判別し得なくなる。だから、二人位で食べるとすれば、別の小鍋に大鍋の方から一合ほど汲み出して移し、これに真水一合を加えてさらに火に掛けるのである。加役は牛蒡《ごぼう》を薄くそいだのがよろしかろう。再び充分に沸《たぎ》らせたならば、塩と醤油で薄く
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