その長い首を左の手で固く握る。まずこうすれば、すっぽんの鋭い歯に噛まれる恐れはないという。そこで左手に吊るしたまま塩ですっぽんのからだを丁寧に洗う。それから、俎の上に尻尾を下にえんこさせ、縦に上から強く押さえてさらに首を引くくらいの気持ちで首を引き出し、上甲の首の付け根に包丁を差し込んで深く切り下げる。こうすると、首と首を動かす筋肉とが縁を断ってしまうから、首は自由を失う。自由を失った首は、もう何処《どこ》へも噛みつくことができなくなるのだ。
三
こうなれば、どこを掴んでもよろしい。首を下に逆さにすると、切り口から血が流れ出る。そして、傍らの釜に沸《たぎ》らせておいた熱湯を充分にかけると、すっぽんのからだについた泥臭がきれいに洗い去られてしまうのである。この湯洗いを忘れると、いかに巧みに調理したところで泥の臭みがとれず、ついに味は半減するのである。
そして、包丁を甲羅のまわりの柔らかい縁に丸く回すと、甲羅がぽっくりと取れる。内臓が、そっくりそのまま腹の甲にのって露《あらわ》れる。そこで第一に胆嚢と膀胱とを除き去らねばならない。もしこれを傷つけると、到底食い物にならない
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