のであるという。一貫目ばかりの大きなのを一匹、四、五百匁のものを三匹、都合四匹が籠の中へ入って元気よく東京へ着いた。そのうち、一番大きい一貫目のものは、令妹二宮美代子夫人の邸で裂いたのだそうである。包丁をとったのは、美代子夫人であった。
父君重松氏の家では、代々すっぽん料理が好きであった。邸内に泉水を掘り、すっぽんを蓄えている程である。であるから、蝶子夫人は娘の時代から父君に指図されて、すっぽんの割烹に経験を積んできた。妹の美代子夫人が、これを学ばぬはずはないのである。さりながら、夫人の腕で一貫目の大すっぽんを裂き得たとは、ほんとうに敬服の外はない。
すっぽんを割烹する法は、いろいろあろうけれど東京風に、すっぽんに絹の端を咬《くわ》えさせておいて、首の伸びたところをその付け根から截《た》ち落とし、続いて甲羅を剥いでゆくのは、当たっていないのである。まず甲羅の裾の柔らかいところを掴んで俎上に運び、腹の甲を上向けにするとすっぽんは四肢を藻掻《もが》いて自然のままに起き上がろうとする。その動作を注視していると、首を長く伸べて吻の先を俎につけ、これを力に跳ね上がろうとするから、機を逸せず、
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