ころが、すっぽんは逃げるのが上手で、雨の降る夜など庭から這い上がり川の方へ出てしまうので、大分損を見たことがある。また、卵を孵化させて小さいのを飼ってみたが、これも大部分逃げられてしまった経験を持っている。すっぽんは、まことに育ちが遅い動物である。卵から生まれた時は五、六匁位で、百匁位に育つには三、四年、二百匁位になるには五、六年もかかろう。だから一貫目前後の大物は、十数年から二十年以上も経ているに違いない。

     五

 春四月ごろ、冬眠から眼覚めたすっぽんは、間もなく交尾期に入り、七、八月の炎暑に産卵する。川に続いた岡の砂地へ這い上がってきて、自分で砂を掘り穴をこしらえて、そこへ卵を産むと穴に砂をかけて川へ帰って行く。卵は日光に照りつけられ、その熱の作用によって自然に孵化するが、生まれた一銭銅貨位のすっぽんは一両日穴の中に蠢《うごめ》いていて、やがて親のいる川の中へ入ってしまう。すっぽんは泥底の川にいるものよりも、砂底の川に棲んでいるものが質が上等である。泥底にいるのは、一種の臭みを持っていて珍重できない。砂底や、岩の間に巣を営んでいるのは爪を見れば分かる。これは爪の先が磨滅
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