して鈍くなっている。ところが、泥底に棲んでいたものは、爪の先が鋭く尖っている。養殖のすっぽんも同じことだ。すっぽんを買うときには、よく爪の先を究《きわ》めねばならないのである。
 このほど、宮城のまわりの堀渫いをした時に数匹のすっぽんが網に掛かってきたのを見ると悉く爪の先が鋭くとがっていたというが、これはお堀の底が、泥であるのを物語っているのである。そして、すっぽんは卵を産んでから後は、十月の末頃まで川の中で餌をとっていて、晩秋の冷気がくると川の底の砂にからだを埋め、首だけ出して冬眠に入る。
 重松代議士は、盥のふちに双手をつきながら、こんな話を長々として、最後に、
『娘共の料理では、大したこともあるまい。明日は、からだが閑《ひま》だから一番僕が手をかけて、このすっぽんを割烹して進ぜよう。お腹をすかせて置いて、やってきませんか』
 と、呵々と笑う。随分、腕に自信がある風であった。[#地付き](一三・一〇・八)



底本:「完本 たぬき汁」つり人ノベルズ、つり人社
   1993(平成5)年2月10日第1刷発行
底本の親本:「随筆たぬき汁」白鴎社
   1953(昭和28)年10月発行
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