どん」に傍点]と言うようになっている。
『わたし、パン』
と、妹の方がつづいていった。この子は、どういうわけか小さいときから麺包《ぱん》が好きだ。
そのことがあってから兄の方は、夕方学校から帰ってくると、うどんかけを二杯ずつ毎日食った。そして、まだ物足らぬような顔している。この子は、もう中等学生であるから、学校から腹をペコペコにして帰ってきて、うどんかけ二杯くらいでは、充分というわけには行かぬのは自分たちにも覚えがある。
妹の方は、朝も麺包、お弁当も麺包にしたいというのだ。朝の麺包のときは紅茶に角砂糖をいれてください。お弁当には、三盆砂糖だけでいいわ、などという。
そこで驚いたのは家内である。饂飩も麺包も一週間に一度、せめて二度位であったなら、なんとか家計の繰りまわしもやれますが毎日では堪りません。麺包が一斤二十五銭、うどんかけが二杯で二十銭。それに砂糖、紅茶、バターなどと贅沢をいえば一日に六、七十銭はかかるでしょう。
その上に、御飯も食べるのですよ。つまり、麺包とうどんはおまけみたいに、なってしまいます。これでは、とてもお勝手の方がやりきれないのですが、何とかあれをやめさせ
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