ものだ、と嘆くのだ。こんな訳で、野菜を食う量も自然に少なくなってくる。哀れであるが、いたし方ない。
それからまた、都会へ住むようになると生魚や肉類の味を覚えるのも無理はないのである。その上に米、味噌、醤油、砂糖など手に入れることさえ、一年前とはようすが変わってきている。銭を持って行ったところで、おいそれとは売ってくれないのだ。炭のことでは、家族手分けして知人や親戚を頼み歩いた。
このほど、家内一同で、なにごとも時世のためだ、できるだけ物の節約をしようね、などと話していると、そこへ町会の世話人が大きなビラを配ってきた。それを読んで行くと、米を節約するために、代用食として饂飩《うどん》と麺包《ぱん》とが大いに奨励してある。これをみて、二人の子供ははしゃぎ立って喜んだ。
『お母さん、僕うむどん大好き』
大きな子供は、こういって相好を崩した。この子供は母乳が少なかったので幼いときから饂飩《うどん》を食べならされていた。だから、いまでも饂飩が大好物なのである。田舎にいる時分は、ただうどん[#「うどん」に傍点]といっていたが、東京へきてから何処《どこ》で聞き覚えてきたのか、うむどん[#「うむ
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