した。
これは、水戸浪士増子金八、杉山彌一郎、広木松之助、大関和七郎などであったのである。さきほど、役僧からお札を[#「お札を」は底本では「お礼を」]受けたのは、大関であった。
絵馬堂の軒下には、見晴らしの茶見世で使う床机が積み重ねてあった。それを堂内へ持ち込んで具合のいいところへ腰かけた。
『ここなら大丈夫だ。だがもう、みんなもやってきそうなものだな』
大丈夫だ、とはいいながら、それでも四人はあたりを気にしながら坂の方を見まわしていると間もなく足駄の雪を蹴りながら傘を担いで登ってくる男を発見した。剣術の竹胴をつけ、伊賀袴をはいて手甲をかけている。これは、有村次左衛門であった。
『遅くなってすまぬ』
静かに、落ちついた声である。
ところへ、堂の前を山番の八蔵という親爺が通りかかって、
『おはようございます』
と会釈して行き過ぎようとしたのを、大関が呼び止めて、
『おっさん、済まないが煙草盆と茶を貰いたいがな。それと、硯箱があれば面倒だろうが拝借したい』
爺さんは茶と煙草盆を運んでおき、さらに出直して塵だらけの硯箱を持ってきた。茶を注いで飲んだ。大関は、懐紙を出して何か書き
前へ
次へ
全17ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング